大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和58年(オ)1387号 判決 1984年5月31日

上告人

大津市

右代表者市長

山田豊三郎

右訴訟代理人

石原即昭

宮川清

中川幸雄

被上告人

清水木材工業有限会社

右代表者

清水久雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石原即昭、同宮川清、同中川幸雄の上告理由について

普通地方公共団体の申立に基づいて発せられた支払命令に対し債務者から適法な異議申立があり、民訴法四四二条一項の規定により右支払命令申立の時に訴えの提起があつたものとみなされる場合においても、地方自治法九六条一項一一号の規定により訴えの提起に必要とされる議会の議決を経なければならないものと解するのが相当である。右と同趣旨の見解のもとに、本件訴えは上告人市の議会の議決を欠き不適法であるとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝藤﨑萬里 和田誠一

角田禮次郎 矢口洪一)

上告代理人石原即昭、同宮川清、同中川幸雄の上告理由

原判決は地方自治法九六条一項一一号の解釈を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、破棄を免れない。

支払命令に対して適法な異議が申立てられたときは、民事訴訟法四四二条一項の規定により支払命令の申立のときにおいて訴えの提起がなされたものとみなされるが、このような場合は地方自治法九六条一項一一号にいう「訴えの提起」に該当せず、同条所定の議会の議決を要しないものと解すべきである。

何故なら、地方自治法九六条一項一一号は地方公共団体が自らの意思に基づいて行動を起こそうとする場合に議会の議決を必要とする趣旨である(従つて、地方公共団体が他から訴えを提起されてこれに応訴する場合は、議会の議決は不要である)。

然るに、支払命令に対して適法な異議が申立てられたときは、地方公共団体の何らの行動を要せず、前記民事訴訟法の規定によつて当然に訴えの提起がなされたものとみなされるのである。

このような場合には議会の議決は不要と解すべきであり、行政実務も従来から右のような解釈のもとに運営されてきたものである(昭和四一年二月二日自治行第一一号宮崎県総務部長宛自治省行政課長回答、地方自治制度研究会編集「地方財務実務提要」二一〇頁以下参照)。

よって、原判決は破棄さるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例